InfiniBandとは。「結の章」
さて、「起の章」ではInfiniBand の起源となるお話を、「承の章」では仕様について、そして前章となる、「転の章」では、具体的な構成について記載させていただきました。最終章となる、「結」の章では、どのようなところに使われているのかという点にフォーカスしてみたいと思います。
■ HPC (High Performance Computing)
InfiniBand は、元々、コンピューターの内部接続を外部に延長できないかというところからスタートしたものであり、広帯域幅、低遅延、CPU負荷が少ないという点を特徴としています。そのため、多くのコンピュータの相互接続に活用することで、全体の演算性能をスケールさせる、一括りにHPCと呼ばれる分野で多く活用されています。
HPC では、一般にInfiniBand の上位に、MPI(Message Passing Interface)と呼ばれるコンピューターを並列に協調動作させるための仕様をのせ、コンピューター間で高速に小さなメッセージのやり取りを行うことによって演算を進めて参ります。HPC は、具体的には自動車の衝突解析・タイヤのトレッドパターン解析、製薬などの分子シミュレーション、ゲノム解析、気象予測、石油探査の地質解析、金融での株価予測・リスク分析、核物理シミュレーションなど様々な分野・業種で活用されています。
世界で一番早いコンピュータを1番から500番まで順位付けを行い年2回更新されるTOP500のランキング(2017年11月版)では、InfiniBandは、TOP500内で最も活用されているインターコネクトであり、全体の500中、192システムで使用されています。わかりやすい例でいえば、ランク1位の中国の「神威」も、InfiniBand を活用しています。最近のTOP500は、従来とは異なりHPC以外の分野で活用されるシステムも順位を得るために登録していることより、TOP500の内HPC で活用されるシステムに限定すると、60%のシステムでInfiniBand が活用されており、この分野においては、引き続き高いシェアを維持しています。
メラノックスによる、Full analysis of the TOP500 より抜粋
■ ストレージ市場
NVMe SSD など高速なSSDを低遅延に接続するために、InfiniBand は、主要なメーカ各社の大規模ストレージの内部接続インターコネクトとして活用されています。基本的にはストレージプラットフォーム各社の内部接続の話ですのでここで我々がその詳細について書くことはしませんが、例えば、メラノックスのコーポレートのプレゼンテーションに記載されている以下のストレージプラットフォームの内、Oracle社をはじめ、NetApp社、IBM社、HPE社など、主要なストレージプラットフォーム企業で、InfiniBand の活用が公表されています。
Mellanox Company Update Feb. 2018 プレゼンテーションより抜粋
■ 製造業
先にHPC分野で挙げた自動車の衝突解析や製薬などR&D部門のシミュレーション分野だけでなく、製造の生産ライン上でもInfiniBandは、活用されています。半導体関連の検査装置、また通し番号の入った有価証券等重要な書類を印刷する大判のプリンターなど、データの遅延が生産能力自体に影響を及ぼすような設備において、低遅延の性能を誇るInfiniBand が活用されています。
■ メディア&エンターテイメント(M&E)業界
意外に思えるかもしれませんが、InfiniBand とこのM&E業界は、長い付き合いとなっています。ポストプロダクションが、非圧縮の映像データの編集を行うには、1本のネットワークで、少なくとも複数のストリームを扱える、安定した帯域幅が必要となります。データセンターで一般的な10ギガビットイーサネット(GbE)の帯域幅では、4K、8Kの非圧縮データを扱うのには不足しており、最近でこそ、25/40/50/100 ギガビットのイーサネット製品が出てきていますが、安定のInfiniband は、引き続き選択肢の一つであり、活用され続けています。
Mellanox Blog : 4K Video Drives New Demands より A Better Way to Manage Video Post Production
■ AI、機械学習
HPC での倍精度演算に対し、AI・機械学習では、単精度演算が求められるというという違いはありますが、AI・機械学習においても、大量のデータを処理するために広帯域幅で低遅延のインターコネクトが必要である事に違いはありません。これまでは、実証実験的な構築が主であるため、クラスター構成での構築例はあまり多くありませんでしたが、今後の本番稼働向けの構築が始まることでこの分野のクラスター構成のニーズが高まっていくものと予想されています。実際の展開としては、自動運転、リアルタイムでの音声翻訳、購買意欲を高めるリコメンデーション機能などでの活用が期待されており、例えば、自動運転を行うには、センシング技術で自動車から一日当たり4,000GBのデータをクラウドに吸い上げ、それらを蓄積・分析・学習させることが必要になります。それらの大量のデータを用い、適切な学習を行うことで、より安全な自動運転のサービスが提供されていくことになるのです。
Mellanox Company Update Feb. 2018プレゼンテーションより抜粋
如何でしたでしょうか?
今回は、紙面の都合もあり、5つのセクションで記載しましたが、広帯域、低遅延、転送自体にCPUを活用しないといった特徴は、今後もInfiniBandを求められ続けるインターコネクトにすることでしょう!
起承転結の4回にわたりお送りさせていただきました「InfiniBand とは。」シリーズは、この「結の章」にて一旦、終了とさせていただきます。ご精読ありがとうございました!